最高裁は、受刑者が新聞社へ手紙を出そうとしたのを不許可とした刑務所長の処分が違法だとして、国に金1万円の損害賠償を命じた(2006年3月24日朝日新聞朝刊)。
本件では、「表現の自由を保障した憲法の趣旨・目的」に照らして、受刑者の手紙の発信が制限されるのは「規律や秩序の維持、受刑者の身柄確保、改善や更生に放置できないほどの障害が生じる相当の高い可能性がある場合に限」るとしたのだそうである。条文的には憲法第21条2項の「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」の「適用」ではないかと私自身は考えるが、「趣旨・目的」からという記事は正確なのだろうか。いずれにしても、受刑者といえども基本的人権の主体であり、むやみに人権が制限されることは憲法上許されないという建前が出発点である筈である。
憲法を勉強すると最初の頃に「特別権力関係」というものを習い、典型例の一つとして、この刑務所と受刑者の関係が挙げられる。この様な場合、包括的に基本的人権が制限され法治主義が妥当しないかの様な関係だとされるが、既に過去の議論であるということも教えられる。本件は、それが過去の議論であることを改めて確認した判決ということも出来るだろう。受刑者の基本的人権から説き起こしているだろうからである。
なお、この判例について解説を書くために例によって裁判所ホームページの最高裁判決最新情報をダウンロードしようとしたら、裁判所のHPの構成が変わってきており、お目当ての最新判例にお目にかかれなかった。やむなく新聞記事を頼りに判決文を推測するしかないが、弁護士の間では新聞記事の判決内容紹介は余り評判が良くない。要約が不正確なことが確かに散見されるからである。最近は裁判所自らが「判決要旨」を配る例が多いのは、一つにはそれをおそれてであろうか。