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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス宇都宮地裁「県警の捜査怠慢による被害を認定」

判例解説インデックス

2006.04.13(木)

宇都宮地裁「県警の捜査怠慢による被害を認定」

捜査怠慢と死亡結果との因果関係を認定

宇都宮地裁は、4月12日、99年のリンチ殺害事件について、「県警の捜査の怠慢が殺害につながった」として、遺族の県・加害者に対する損害賠償を認めた(朝日新聞夕刊)。

これは法律家の目からみると、相当大胆な判断である。すなわち、県警から見て、他者(犯人)の行う自由意志による行動すなわち殺害行為まで予見できたかどうかという点で、本件判決は、予見できたし結果(被害者の死亡)の回避もできたという判断だからである。判決文を読んでいないので正確なことは言えないが、新聞報道を前提にする限り、過失責任を問う以上予見もできたし回避もできたという判決だということにならざるを得ない。普通ここまでの判断をするのは躊躇われる。例えば、堤防の強度が不十分だったため決壊して家屋が水害に遭った様な事例で、堤防管理者の責任を問おうとすれば、堤防の強度・降水量などのデータが得られれば、堤防決壊の予見もできたし補強工事をすれば決壊を未然に防ぐことができたという風に物理現象であれば因果関係や過失の有無は比較的客観的に認定しやすい。これに対して、人間行動が要因である場合は、この認定は常に不確定要素を含む。本件で言えば、犯人が殺害に及ぶことを予見できたか(例えば単に犯人が海外逃亡に及ぶ可能性などはなかったか)、殺害に及ぶ前に検挙できたか(逮捕には社会的・物理的困難や障害はなかったのか等)は上記の物理現象とは同列に論じることはできない。そこで、死亡結果との間に因果関係は認めないが、精神的苦痛を味あわせたという慰謝料のレベルで被害者救済を図るという行き方になるのが、多くの判例の傾向と思われる。

しかし、宇都宮地裁は死亡結果との因果関係を認める判断に踏み切った。判決本文を詳細に分析してみないとわからないが、余程の事情があったのだろうと推測する。ぜひ判決文を読んでみたいものである。