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2011.07.13(水)

ジョーカー・ゲーム

柳広司

第2次大戦中に日本陸軍内に極秘に設けられたスパイ養成機関“D機関”、というフィクションである。いわゆる陸軍中野学校がモデルであろうが、大分史実とは違うようで、フィクションとして十分に面白い。吉川英治文学新人賞・日本推理作家協会賞のダブル受賞だけのことはある。

スパイによる情報戦を卑怯な戦法と断じて忌み嫌う軍部との軋轢の中で、伝説のスパイマスター結城中佐がD機関を確立すべく腕を振るう。結城が育てた部下たちは日本国内でも日本国外でも見事に立ち回る。派手なアクションシーンはなく、緻密な頭脳戦が描かれる。頭脳戦というか謀略戦と言っても良かろう。

戦前の軍部にあって、天皇を現人神と認めず徹底したリアリストとして活動することが求められるスパイたちに、どうしても馴染めない軍士官学校卒業生も登場し、その時代背景がわかる。

比較的薄い本だが、内容は短編集で、それぞれ一話完結だが奥は深い。各短編を貫く結城中佐の存在が、ある意味では不気味でニヒリスティックで、そこが面白い。

私はスパイ小説フリークだが、本書はスパイ小説初心者に是非読んでもらいたい。


角川文庫
552円+税