大阪地検特捜部の検事が、証拠を改竄した事実をスクープした朝日新聞取材班のドキュメントである。大阪地検特捜部が壊滅的打撃を蒙ったこの事件が、どの様な経緯で始まりどの様に記事にされていったのかを、ことの発端から報告したものである。
しかし、取材源の秘匿という意味なのであろう、真の内部告発者の素性は明かされない。著書上は「その人」としか表現されず、「その人」の発言も性別も地位も明らかにされないように配慮されている。その点、物足りないと言えば言えるのだが、止むを得ないのだろう。
しかし、このスクープをものにしようとして自分達が逮捕される危険まで覚悟して、事にあたる記者たちの群像は丁寧に明かされる。それはそれで、ドラマティックであり面白い。
ただ、証拠改竄をしてしまった検事自身の内面には踏み込めず、公式発表を追うだけなので、やや不満が残る。検事自身への直接取材ができなかったことを悔やむ著者らの気持ちもわかる。
証拠改竄に直接手を下した検事、それを知らされつつ検事を犯人隠避したとされる上司、前者は罪を認め、後者は全面否認との人間模様も興味深い。大阪地検特捜部を中心とする「関西検察」というグループにも言及され、そのグループと全面否認の検事との軋轢も語られる。
事実経過の再確認という意味もあるが、古い言い方だが「記者魂」が感じられて、その部分を感じ取るのも本書の醍醐味の一つであろう。