鳥取の旧家を舞台に、祖母・母・わたしに至る女性三代の物語である。第60回日本推理作家協会の受賞作である。
赤朽葉という変わった姓の一族で、鉄鋼会社を経営しているのだが、その赤朽葉鉄鋼の盛衰に合わせた赤朽葉家の興亡が女性三代を通して語られる。大体第2次大戦後から現代に至るまでである。この間の世間の風潮も同時に語られるのだが、赤朽葉鉄鋼は時代の技術経済の進歩に合わせて変貌していくが、赤朽葉家は世間の流れから超然としている。しかし、その中で三代の女性それぞれが特徴を持ったドラマを展開する。
第一の主人公赤朽葉万葉は一種の超能力者で千里眼奥様と評される。その意味で、一種の超能力者が主人公のファンタジーないしSFに近く推理小説かなと思わせるのだが、最後は謎解きも出て来て推理小説の趣も確実にあるのだが、寧ろ推理を楽しむというより、表題通り「赤朽葉家の伝説」を楽しむことが本書の醍醐味と言えよう。
三代の女性それぞれもそうだが、登場人物の造形がそれぞれ特徴的で、各自がそれなりの人生を生き各自の人生が交錯するという構成で、中々に面白い。これに時代背景を重ね合わせて見ると益々興味深い。赤朽葉家・赤朽葉鉄鋼を舞台にした戦後史という読み方もできる。
文庫本1巻でそう薄くはないが、この長さで戦後史を語りつくすというのは並みの技ではない。受賞もむべなるかなと思わせる。