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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス東京地裁、小沢元代表に無罪判決

判例解説インデックス

2012.04.26(木)

東京地裁、小沢元代表に無罪判決

強制起訴の困難性

東京地裁は、26日、政治資金規正法で強制起訴された小沢元民主党代表に無罪を言い渡した(朝日夕刊)。本件では、政界に強い影響力を持つ小沢元代表に下された無罪判決ということで、その政治的影響が最も注目されるが、ここでは寧ろ法的制度としての強制起訴の解説をしたい。

我が国は、本来、起訴独占主義といって、公訴権(犯罪について刑事裁判を訴え出る−起訴する権限)は検察官が独占することを原則としている。また同時に起訴便宜主義といって、起訴するかしないかの裁量は検察官に任されている。その意味で検察官は刑事について強大な権限を有するのである。

しかし、この起訴便宜主義が恣意的に行使されれば、本来、起訴すべきものが起訴されない危険も考えられるので、国民の側から、この起訴独占主義の例外を認めたのが、検察審査会である。検察審査会とは、くじで選ばれた一般国民が検察が不起訴にした案件について不起訴が妥当な判断だったかを審査する会議である。

以前は、不起訴不当と検察審査会が判断すると検察官が再捜査して、もう一度起訴するかどうかを決め、再捜査の結果、やはり不起訴で終わらせるということもできた。起訴独占主義がギリギリ守られていたのである。

ところが、2009年の改正で、2回目の検察審査で11人中8人以上の賛成が得られれば、検察が2度不起訴にした事件でも、強制的に起訴されることになった。これが強制起訴で、一般市民の意思を優先させて起訴独占主義に風穴を開けたのである。

強力な捜査権限を持つ検察官が二度も捜査して不起訴にするということは、起訴しても有罪に持ち込めないと2度とも判断した訳だから、これを強制的に起訴して有罪に持ち込むのは容易な業ではない。今回は、その心配が的中した形である。しかし、裁判員裁判と同じく司法に市民感覚を導入しようという建前自体は否定できない重みがあるので、今後の事例の積み重ねを待つしかないのだろう。