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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス東京地裁、国旗・国歌の強制を違憲・違法と判断

判例解説インデックス

2006.09.24(日)

東京地裁、国旗・国歌の強制を違憲・違法と判断

都教委の通達は教育基本法が否定する「不当な支配」に該当

東京地裁は、教職員に対し入学式や卒業式で国旗に向かって起立し国歌を斉唱するよう定め違反すれば停職を含む懲戒処分の対象とするという東京都教育委員会の通達を、教育基本法10条1項の「不当な支配」に該当し、違法と断じた。また国旗を掲げ国歌斉唱を強要することは少数者の思想良心の自由(憲法19条)を侵害するとした(9月22日朝日朝刊)。

教育基本法10条1項を引くと、「教育は、不当な支配に服することなく、国民全体に対し直接に責任を負つて行われるべきものである」とされている。都教委の通達が、この「不当な支配」に該当するとされた訳である。

本欄で6月1日に解説した5月30日の都立板橋高事件の東京地裁判決とは対照的と言える。尤も板橋高事件の方は、起立しないよう国歌を歌わないよう唱導した行為が威力業務妨害罪に該当するかどうかという刑事事件であり、今回の裁判は行政訴訟・国家賠償訴訟として争われたものという違いはある。しかし、今回の判決の論理を板橋高事件の方に当て嵌めれば、国家を歌わないよう唱導したことは少数者の思想良心の自由という憲法上の権利を擁護し教育に対する不当な支配への抵抗ということができ、刑法上、正当防衛、それが難しければ少なくとも可罰的違法性を欠く行為と構成することは十分可能である。

板橋高事件の解説でも書いたが、この事件の原告らや私は国旗・国歌を軽視せよとか蔑視せよ等と主張している訳ではない。国旗・国歌の尊重を公権力が法的に強制する、法的に義務付けるやり方が間違っていると言っているのである。本判決も、入学式、卒業式で国旗を掲げ国歌を斉唱することは有意義だと認めた上で、それを懲戒処分をしてまで強制することは少数者の良心の自由を侵すものであり、国旗・国歌は自然のうちに国民の間に定着させるのが国旗・国歌法の趣旨、学習指導要領の趣旨だとしている。極めて常識的な判断だと考える。