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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス最高裁が平成16年参議院選挙の定数配分を合憲と判断

判例解説インデックス

2006.11.09(木)

最高裁が平成16年参議院選挙の定数配分を合憲と判断

投票価値の平等と参議院の特殊性

若干古くなったが、最高裁は10月4日、公選法の参議院の定数配分規定は平成16年7月11日当時、憲法に違反しないと判示した。

疑問の残る判断だが、投票権についての憲法判断は時々出るので、どう考えたら良いのか考え方の道筋について若干解説したい。

まず、憲法15条は「公務員を選定し、及びこれを罷免することは国民固有の権利である」(1項)「公務員の選挙については、成年者による普通選挙を保障する」(3項)とする。つまり、国会議員や地方議会議員の様な公務員を選んだり馘にしたりすることは、国民の基本的権利だということをまず謳う。そして、憲法44条は、「両議院の議員及びその選挙人の資格は、法律でこれを定める。但し、人種、信条、性別、社会的身分、門地、教育、財産又は収入によって差別してはならない。」とされ、その根本は憲法14条「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」という平等原則がある。

これらの憲法の条文からすると、「投票価値」の平等も憲法が求めていると解釈することになり(この建前自体を否定する法律家も学者も政治家もいない)、「複票制」(一人一票ではなく特定の人間が他の人より票を沢山入れることが出来る制度)が否定される。従って、投票価値の平等が達成されない選挙は憲法違反、すなわち法的には無効という理屈になる。

ところが、投票価値を完全に1:1にすること(例えば東京都の選挙民の投票価値と島根県の選挙民の投票価値を全く同等にすること)、そしてそれを常に変化する人口に応じて常に調節することは技術的に不可能という問題がある。且つ、今回の裁判で問題となった参議院は衆議院と異なる性格を持たせるべきではないか、という観点が加わる。それが本件判決の多数意見で言及されている「地域代表」である。つまり、人口のみで議席配分を決めると、人口の多い地域の議員が議会で多数を占め、人口の少ない地域の声が議会に反映されないので、参議院においては、人口の少ない地域の選挙民の投票価値が人口の多い地域の投票価値より高くすることも憲法は認めている、というのである。

更に議論を厄介にしているのは時間的観点である。すなわち、投票価値の平等が達成されない選挙というが、それは時々刻々人口変動に応じて定数配分を変更することが不可能である以上、投票価値の平等を是正すべき相当の期間内に是正が行なわれなかった場合に初めて憲法に違反するという時間的観点を入れるからである。本件では定数配分違憲判決が出て6ヶ月後の選挙だったから止むを得なかったのだというのが多数意見である。

ちなみに違憲と判断された場合に、法律の素人の方は勿論私の様な法律家でも納得せず事態をややこしくしているのが「事情判決の法理」という理屈である。要するに、「違憲・違法」=「法的に無効」という本来の法原則に例外を設け、違憲だが有効とする場合を認めるというものである。つまり選挙を無効とすると、収拾し難い混乱が生じるので、裁判所が選挙は「違憲」である旨を宣言するに留めて国会議員の地位は有効にしておいてやるから、とにかく議員として違憲状態を早急に解消しろよというお情け的な判断と言えなくもない。

最高裁の裁判官達の意見が、この点に対しては国会の怠慢に憤懣やる方ないという感情が読み取れて面白いと言えば面白い。

今回の判決でも参議院定数配分は合憲だという多数意見に対して、違憲だという反対意見を書いた裁判官が5名いらっしゃった。また多数意見の中でも「辛うじて合憲」的な補足意見を縷々述べている裁判官が多く、この点に対する最高裁の国会に対する目は、相当厳しいものがある。我々も監視を怠らないようにしなければならない。