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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス東京地裁、飲酒を勧めた同僚にも賠償責任を認める

判例解説インデックス

2006.08.06(日)

東京地裁、飲酒を勧めた同僚にも賠償責任を認める

飲酒運転を制止する責任

東京地裁は、7月28日、飲酒運転で死亡事故を起こした加害者だけでなく、一緒に酒を飲んでいた同僚にも賠償責任を認めた(朝日7月29日朝刊)。

記事によると、運転者は同僚男性と取引先の会社幹部らとの忘年会に出席し、複数の店で飲酒したが、同僚男性は、運転者が運転する直前まで一緒にいたが、自分が早く帰りたいばかりに、自らタクシーや代行運転を呼ぶことなく運転者を駐車場に残して帰宅した、とのことである。「車で帰宅する者に正常な運転ができなくなるまで飲酒をすすめた者には、運転を制止するべき注意義務」があり、それを怠ったことは飲酒運転の幇助(手助け)に当たる、と判示した。なお、運転者は危険運転致死傷などの罪で懲役7年の判決が確定しているという。

記事では、適用された条文を明示していないが、民法719条が適用されたのだろう。この条文は第一項で共同不法行為者は連帯責任を負わせるということと、第二項で「教唆者・幇助者」は共同不法行為者と看做すことにしている。ここで、「教唆」とは「そそのかす」という意味で、不法行為をする意思のなかった者に対して、不法行為をするよう「そそのかして不法行為の意思を発生させる」ことをいう。「幇助」とは不法行為の意思を既に持っている者に対して、その手助けをする場合で、有形・無形を問わないとされている。有形とは文字通り形の有る手助けで、典型例は不法行為の道具(例えば凶器)を行為者に渡してあげる様な手助けであり、無形とは物質的な形の無い手助けで、典型例は言葉による励ましである。

この幇助は、「不作為」つまり「何もしない」ことによっても行われるが、その前提として「不作為」が法的に期待された「作為義務」に違反することでなければならず、本件では「飲酒運転を制止する義務」について、何もしなかったことが違法な幇助に当たる、とされたのだろう。

判決文の詳細を読んでみないと確実なことは言えないが、この同僚が運転者に対し「正常な運転が出来なくなるまで酒を勧めた」という危険な状態を引き起こした先行行為、「駐車場で別れた」ということからこのまま何もしないで帰れば運転者は危険な飲酒運転に至るだろうことが予見できた筈だということ、或いは運転者には厳しい刑事責任が問われているということ等から、同僚は相当悪質だという意識が働いたのだと思われる。

一見厳しい判決の様にも見えるが、責任の取らせ方としては妥当だと私は思う。私を含めて酒を飲む人は、自分が飲酒運転をしなければ良いというだけでないことを心しなければならない。