外交官として、崩壊前のソ連とソ連崩壊後のロシアに駐在した著者の体験談である。
著者の「自壊する帝国」という賞を受けたソ連崩壊のルポの面白さには一歩譲るが、それでも著者ならではの体験と考察が語られ、十分に面白い。
ソ連が崩壊したのは、経済問題と民族問題を解決出来なかったからだ、とされ、特に後者の民族問題に本書では焦点が当てられる。著者はこれを「エトノクラチヤ」という概念で説明しているが、私には今一つ理解できない。「優越民族意識」に裏打ちされた「民族運動」という風に理解しているが、少し違う気がする。
文庫独自に「プーチン論」が収録されているが、プーチン氏が大統領に「再選」されたばかりだったので、中々興味深かった。ロシアには「ユーラシア主義」という思想があって、これがプーチンの基本にあるのだということである。「ユーラシア主義」とは、ロシアはヨーロッパからアジアまでを包括する地政学的意義とその思想があるということである。そして、このユーラシア主義に基づく「帝国」を築こうというのが、プーチンの考え方だという。
ソ連崩壊後、大国として甦ったロシアだが、その動向を見定めるには好個の書ということができる。少なくとも末尾のプーチン論だけのために本書を買っても十分お釣りが来るだろう。