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2012.03.11(日)

これから「正義」の話をしよう

マイケル・サンデル 鬼澤忍訳

マイケル・サンデルハーバード大学教授のハーバード大学における”JUSTICE”という講義に基づいた著書である。著者の講義は大変人気があり、アメリカでテレビ番組としても公開され、それが日本でもNHKで放送されたそうである(僕はみていないが)。

著者は、「正義」について3方向からのアプローチがあるという。すなわち第1は功利主義の見地からの最大多数の最大幸福を求めるアプローチ、第2は自由を起点とするアプローチであり自由放任主義と平等主義とが取り上げられ、最後の第3は正義は善き生と深い関係にあるとするアプローチである。この3方向の検討の中で、ジョン・スチュアート・ミル、カント、ジョン・ロールズ、アリストテレスなどが取り上げられる。

著者は、妊娠中絶や代理出産などジャーナリスティックな話題を例に、それぞれ考察を深めて行く。

我々の日本国憲法は、アメリカ憲法に範をとっているので、著者の論理展開は例の豊富さもあって分かりやすい。国家・政治は価値中立的でなくてはならないという特に第2のアプローチは私の憲法観からすれば、最も是認すべきものである。しかし、著者は、最終的には第3のアプローチの陣営に与する。現代アメリカでは、もはや価値中立的では正義は実現できないのだという。特に価値中立を宣言したケネディ大統領と価値を主導すべきであるとするオバマ大統領との対比がわかりやすい。

我々法律家の目的は「正義の実現」である。弁護士法1条は、「弁護士は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする」と規定しているくらいである。私も、そのつもりでいるが、具体的事件の中で何が正義か迷うことも多いので、この3つのアプローチは参考になった。

堅苦しい哲学の専門書とは一味違った書であり、「正義とは何か」と考えている人には是非一読を勧めたい。


ハヤカワ文庫
900円+税