甲能法律事務所甲能法律事務所
検索

メディア評インデックス

2010.12.16(木)

私のマルクス

佐藤優

評論家というのか文筆家というのか、いずれにしろ外務省職員として鈴木宗雄議員と組んだとされる事件で一躍時の人となり、保釈後に書かれた「国策捜査」や「自壊する帝国」などの著書で毎日出版文化賞や新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞などを受賞した作家である。多分ご本人のお考えとしては、神学者が一番近いのかも知れない。

佐藤氏が埼玉県立浦和高校を卒業し、同志社大学神学部に入学・卒業、同学部の大学院修了後、外務省に入るまでの思想的遍歴と交遊録をまとめた本である。軽い言い方をすれば青春記と呼んでも良いだろう。

ただ、思想的遍歴の部分は、かなり突っ込んだ内容なので難解な部分も多い。特に神学に関する部分は、神学という学問そのものに私は全くなじみがないため、相当噛み砕いてあるのだろうけれど、理解できない部分が多かった。マルクスに関する部分は、私の学生時代の僅かな読書歴からして辛うじてついて行けたけれど。

思想的遍歴と表裏して語られる交遊録、神学部自治会の学生仲間、指導教授とのやりとり飲み会等は、やはり一種の青春録として良くわかる。特に私も京都で学生時代を送ったので、懐かしい部分が多かった。

ただ、一冊の本としてみた場合、他の著書の「国策捜査」や「自壊する帝国」を読んでいないと、それらの本が書かれるに至る形成過程を語るという内容なので、本書のみを独立して読んでも余り感銘は受けにくいと思われる(キリスト教徒の方ならまた別かもしれないが)。そういう意味では、佐藤優ファンにお薦めの本というべきなのだろう。


文春文庫
714円+税