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2010.12.07(火)

秘密

東野圭吾

第52回日本推理作家協会賞受賞作だそうだが、テーマには何らの犯罪も登場しない。強引に分類すれば、いわゆる人格入れ替わりものなのでファンタジーになるのかもしれない。

妻と娘が乗るスキーバスが交通事故に遭い、妻が死亡し娘は生き残るのだが、生き残った娘の意識が妻の意識に入れ替わり、すなわち妻は体が死に、人格は娘の肉体を借りて生き残り、娘の意識は消えてしまうという設定である。ここから残された夫(娘の父)と妻(肉体は娘)の奇妙な家庭生活が始まる。三十数才の妻と十一歳の娘の人格入れ替わりで、生き残った意識が妻だということは夫にしかわからないという設定になっている。

大人の意識を持ちながらも、十一歳の娘は日々成長して行き中学・高校へと進む。その過程で、娘でありながら妻との共同生活を続ける夫との間に、様々な軋みが生じる。一種のホームドラマと言えば言えなくもない。その意味でも推理作家協会賞作としては違和感がある。

幾つかの変転があって、ストーリーを明らかにする訳には行かないが、最後のどんでん返しは人によっては感動する場面なのだろうが、正直私は余り感激はなかった。というより、「どこが推理小説なのだろう」という思いを最期まで引っ張って読み続けたからであろう。その先入観を最初から捨てて読み進めば、ずいぶん読み甲斐のある小説なのかも知れないと思う。ある種の夫婦愛物語というつもりで読めば感動ものであろう。受賞はその意味かもしれない。そういう意味では推理作家協会賞も間口の広いものだということになる。よく出来た小説だとは思うので、これはこれで良いのかも知れない。


文春文庫
667円+税