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判例解説インデックス

2007.01.18(木)

大阪高裁も元高検部長有罪

口封じ起訴という無罪主張認めず

1月15日、捜査情報を得ようとした元暴力団員から飲食や女性の接待を受けた等として収賄罪や公務員職権濫用罪などの罪に問われた元大阪高等検察庁公安部長に対して、大阪高裁は一審の大阪地裁の有罪判決を支持して、控訴を棄却した(朝日新聞夕刊)。

この裁判では、検察庁で使用されている「調査活動費」の不正流用を元高検部長が暴露することの口封じのための冤罪であるとして、被告人側は無罪を主張していた。

この「調査活動費」とは、情報提供者への謝礼などに使われるとされる費用で、そういう内容であるため使途は明らかにされないとされている。そういう性格を悪用して、検察庁幹部の私的な飲食費や遊興費などに流用されたという疑惑が表面化し、その実態を大阪高等検察庁部長の要職にあった被告人が内部告発しようとした矢先に逮捕勾留起訴された、と被告人側は主張。

判決では、被告人が高知・高松の両地検で次席検事(地方検察庁のナンバーツーの要職)だった頃に直接体験した限度で、調査活動費の不正流用があったと認定した。しかし、被告人自身に犯罪の嫌疑があれば、それ自体の捜査は進める他はないとして、結局、被告人を有罪(地裁判決を維持して実刑)とした。

国民を刑事裁判にかける権限(公訴権という)は、検察官しか持っていない(「起訴独占主義」という)。時の総理大臣であろうと最高裁長官であろうと犯罪の嫌疑があれば捜査して、有罪と確信すれば起訴して、適正な法の執行に当たり正義を実現するのが検察官の役割である。他方、我が国では、その権限を行使するかしないかは原則的に検察官の判断に任されており(「起訴便宜主義」という)、犯罪があれば必ず起訴しなければならない(「起訴法定主義」という)とはされていない。つまり、検察庁は法の厳正な適用を期待されているのであるが、最終的な判断は検察庁の匙加減という面がないではない。

本件がもし内部告発の口封じのために公訴権を濫用したのであれば、とんでもない話であるが、大阪地裁・高裁もその主張は認めなかった。

オーム真理教の弁護人だった弁護士も逮捕・勾留・起訴されたが、こちらは東京地裁で無罪となっている(東京高裁係属中)。こちらもオーム真理教の審理に邪魔だった弁護士を排除しようとしたのではないかと言われている。

検察官のこの様な強大な権限行使のやり方が、時として「検察ファッショ」等と言われたりする。国民は、検察庁に期待するところ大であるが、一方、検察庁の権限行使のあり方も注視する必要がある。