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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス最高裁「在外被爆者訴訟で広島県の上告棄却」

判例解説インデックス

2007.02.08(木)

最高裁「在外被爆者訴訟で広島県の上告棄却」

時効の主張許さず

平成19年2月6日、最高裁は、ブラジルに移住した被爆者が広島県を相手に被爆者援護法に基づく健康管理手当の支払を求めた裁判で、在外被爆者に手当てを支払わないという国の通達を違法として、県に請求全額の支払を命じた二審判決に対する県の上告を棄却し、その結果、二審判決が確定した(朝日新聞夕刊)。

ここで問題とされたのが、地方自治法上の時効5年である。

周知のように「時効」は日常用語化しているが、法で定めた一定期間の時の経過に法律の効力発生を認めるもので、民事的には時の経過で債権が消滅する消滅時効と権利を取得する取得時効、刑事的には刑事裁判にかけられなくなる公訴時効がある。

このうち、民事の時効は、時の経過により自動的に権利が消滅したり権利を取得できたりする訳ではなくて、原則として「時効の援用」が必要とされている。この「時効の援用」とは、時効によって利益を受ける者が時効の利益を受ける意思を表示することであり、法定期間が経過したことに加えて、「時効援用」があって初めて時効が完成することになっている。

ところが、地方自治法では、地方自治体による時効の援用は不要で、時の経過5年で権利行使をしなかった者に対しては時効援用をせずに自動的に時効になると定められている。

本件では、広島県はこの規定に従って裁判では時効を主張した訳である。

しかし、最高裁は「時効の主張は信義則に反して許されない」とした。

「信義則」とは「信義誠実の原則」(民法1条2項)のことであり、法の大原則の一つとされている。大雑把に言うと、相手方や社会の信頼を裏切ったり反したりする行為をしてはならない、という或る意味では当たり前のことであるが、裁判紛争の内容に応じて具体的な現れ方は様々である。

本件では、在外被爆者への手当て支給を廃止した国の通達が違法とした上で、その様な違法な通達に従って手当てが打ち切られたことについて、5年の時効期間が過ぎたから時効消滅していると主張するのは、それは信義に反すると最高裁は認めた訳である。極めて常識的で納得できる判断である。