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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス最高裁「在外邦人の投票権を認めないのは違憲」

判例解説インデックス

2005.09.19(月)

最高裁「在外邦人の投票権を認めないのは違憲」

外国にいても投票権は同価値!!

最高裁大法廷は、2005年9月14日、海外に住む日本人に国政選挙の選挙区での投票が認められていないことを違憲と判断し、選挙権を認める法律を作らなかった立法不作為を違法として慰謝料請求を認めた。

その前提として、最高裁判所には違憲立法審査権がある(憲法81条)。憲法は国の基本法だから(国の基本骨格を定める法だといってもよい)、それより効力が劣るとされる法律や命令が憲法に反する場合は無効とされるが、憲法に反するかどうかを最終的に判断する権限のある国家機関が、最高裁判所だというのである。これは、国会が合憲だ内閣総理大臣が合憲だと言っても、いや違憲だと最高裁判所が判断すれば、最高裁の判断の方が通用することに憲法上なっている、ということなのである。

では、法律をつくるときに予め最高裁にお伺いを立てて違憲か合憲か判断してもらって、違憲のものは立法しないようにすればよいかというと、そうは行かない。裁判所は、何か事件が起こって判決を迫られたときにしか、それも結論を出すのに必要なときにしか、憲法判断をしないことになっている。これを付随的違憲審査制といって、具体的紛争抜きに憲法判断が出来る抽象的意見審査制とは異なる制度である(なお、法律や政策が憲法に反しないか等を事前に調査して方針を助言するのが内閣法制局であるが、そこは内閣の一部局であって、最終的な憲法判断権を持っている訳ではない。ちなみに内閣法制局長官から最高裁判事になるルートが確立されてはいるが)。

今回も投票が出来なかった人たちが自分の被害を訴え出て裁判になったから、憲法判断が下された。

そして、公務員(当然議員を含む)を選定・罷免することにより国政に参加する権利はどんな形であれ保障されなければならないから(憲法15条)、今回の判決は当然である。

他方、「立法不作為」とは聞き慣れない言葉だと思う。

そもそも国家賠償法という法律に基づいて、国に慰謝料等の損害賠償請求が認められるためには、国の行為が「違法」と評価できなければならず、「立法不作為」が違法だったか否かが本件のもう一つの争点なのである。

「不作為」とは「(何かを)しないこと」であって、ここでは「立法をしないこと」が「立法不作為」となるのだが、一方で「国会は、…唯一の立法機関」と憲法上されているので(憲法41条)、「立法をするかしないかは国会の専権」という建前からは、裁判所が「立法しないことは違法」と判断するのは越権行為ではないか(正確にいうと三権分立に反するのではないか)ということが問題となる。しかし、立法権は国会に属するとはいっても、立法するかしないか好き勝手にして良い、という訳ではない。憲法上、国会に立法する義務があると認定されれば、立法しないことが義務違反すなわち違法という判断を裁判所は下すことが出来る。今回は、そう認定したということである。

選挙権の平等(一票の価値の平等)など、これを放置する国会の怠慢に対して以前から最高裁は厳しく批判してきたが、今回は国家賠償まで認めた。俗な表現をすると、最高裁判事たちは国会議員たちの怠慢が腹に据えかねているのだろう。同感である。