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2016.07.06(水)

日本会議の研究

菅野完

  

安倍政権を支持するにせよ批判するにせよ、いずれの立場からも本書は一読に値する。とても面白い。

日本会議から出版妨害があったとかネットで色々騒がれていたので、出版時点で特に著名な著者でもないし(失礼!)出版社も有力なところではないのに(失礼!)、出版妨害なんて、そんなナリフリ構わない愚挙に出なければならない程インパクトがあるのかと、半信半疑で読み始めたが、実に面白かった。「生長の家」が慌てて「ウチは日本会議とは関係ないですよ」と声明を出さざるを得ないのも分かる。

本書の基調は「日本会議」を指して「…日本の社会が寄ってたかってさんざんバカにし、嘲笑し、足蹴にしてきた、デモ・陳情・署名・抗議集会・勉強会といった『民主的な市民運動』をやり続けていたのは、極めて非民主的な思想を持つ人々だったのだ。そして大方の『民主的な市民運動』に対する認識に反し、その運動は確実に効果を生み、安倍政権を支えるまでに成長し、国憲を改変するまでの勢力となった。このままいけば、『民主的な市民運動』は日本の民主主義を殺すだろう。なんたる皮肉。これは悲喜劇ではないか!」とする。

この後書きの一節だけ読めば、日本会議批判を通じた反安倍政権のための政治的プロパガンダの書の様にも読めるが、であれば只の政治的パンフレットないし政治ビラに過ぎない筈だから、「出版妨害」なんてする必要はない。黙殺するか精々反論のビラを撒けば良いだけの話だ。

ところが、本書は極めて実証的なのである。資料を広範に渉猟し、収集した資料を読み解き、それらの資料も対象者自らが語る第一級資料なので信憑性が高く、その上で一定の判断を導き出す。その過程は間違いなく謎解きそのもので、ミステリー好きの僕を興奮させる。そして最後に辿り着いた地点では、ある種、青春の墓標的でもあり、一抹の感傷さえよぎる。読み物としても一級品と言っていい(ちなみに文章も僕好み)。

本書の終盤を明かしてしまうことは、未読の読者の興を削ぐことになると思うので、やはり明かさずにおこう。

ちなみに、本書を批判するなら、著者の引用した資料に遡って行われる必要があろう。逆に言えば、原典に当っていない我々も鵜呑みにしてはいけないのだが。


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