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メディア評インデックス

2012.05.26(土)

山口百恵 赤と青とイミティション・ゴールドと

中川右介

山口百恵さんが1970年代随一のスターであり、引退した今もなおスターであり続けているのは周知の通りである。本書は、百恵さんのデビューから引退までの現役時代を「総体としての山口百恵」という視点−個人山口百恵ではなく−から描きだそうとしたものである。

百恵さんは1959年生まれで、私より5歳年下であるが、デビューが14歳で、私が大学に入った年から人気が出て来て、私自身学生時代はテレビを持たずラジオばかり聞いていたので、殆どのヒット曲はフォローできる。実際、私はトリオと言われた森昌子さん・桜田淳子さんには悪いが全く興味がなく、百恵さんにだけはファン感情を抱いていた。

本書は、著者自身もファンだそうだが、そういう感情を一切抜きにして、1970年代の芸能現象としての山口百恵を描いたということになろう。実際、山口百恵は一芸能人としてスターだっただけではなく、社会現象でもあったので、そういう観点からの評伝は十分に書く価値がある。

例えば、19歳1978年の活躍では、当時の国鉄とタイアップして「いい日旅立ち」をヒットさせ、「プレイバックPartII」ではNHKの官僚意識を無視して紅白で「真っ赤なポルシェ」という企業名で謳ったのであるが、著者はそれらを総括して次のように表現する。

「こうして、私生児として生まれ、決して豊かな家庭に育ったわけではない少女は、わずか十九歳にして、この国最大の国家の鉄道会社と対等に提携し、全国をネットワークする国家の放送局とも対等にわたりあったのである。鉄道と電波を制圧するのが革命の条件だとすれば、山口百恵は日本史上、ただひとり、その勝利がたとえ一瞬のものだったとはいえ、真に成功した革命家だった。」

こういう視点で評伝が綴られて行き、中々面白い読み物になっている。難を言えば、写真−それも篠山紀信撮影の−が一枚も無いのが残念だが、それは写真集を買えよという話で、無いものねだりということだろう。


朝日文庫
940円+税