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2011.05.18(水)

レーニンの墓 ソ連帝国最後の日々(上)(下)

デイヴィット・レムニック 三浦元博訳

副題の通り、あのソ連の崩壊を描いたドキュメントである。原著は崩壊直後の1993年にアメリカで出版されピューリッツァ賞を受賞しているが、今回の翻訳は2011年2月であり、わが国に紹介されるまで18年もかかっている。それが何故なのか私には良くわからない。著者序文にある通り、その後のロシアの道程が予想外の展開を遂げたので、様子を見ていたのだろうか。

著者の日本語版序文(2010年5月記)は、「終焉という幻想」と題され、ソ連の崩壊が、当時ソ連が抱えていた諸問題の真の意味の終焉ではなく、現在は新たな独裁ないし権威主義に陥っているとして、かなり悲観的である。

ともあれ、本書は上下2巻の大著であるが、内容的にも十分読み甲斐がある。

周知の通り、ソ連の変貌は1985年にゴルバチョフが書記長に就任してから展開されたペレストロイカ(刷新)に端を発する。尤も既にその時点で、ソ連は政治・経済・文化などの諸側面で行き詰まりとなっており、誰かが改革の火の手を挙げなければならない時期に来ていたようである。当時の行き詰まり状況を著者は詳細に報告し、その報告内容は戦慄を覚えさせるが、幾分か思想弾圧に重点が行き過ぎている気がしないでもない。

それが、ペレストロイカで自由化されて行くのだが、そこで立ち上がった民主主義派はどんどん先へ進み、ゴルバチョフの手綱を離れて行く。その様な民主化の動きに対する守旧派の反動も起きるのだが、ゴルバチョフはその守旧派にだんだん擦り寄って行く。

この辺りが私が本書で得た新知識である。ゴルバチョフは進歩派一辺倒だったという思い込みがあったが、後半では守旧派に擦り寄っていたのである。しかし、守旧派はそれでも飽き足らず、遂にはゴルバチョフを軟禁してクーデターを起こす。ところが、そのクーデターの計画・実行のお粗末なことに驚かされる。これが当時のアメリカと並ぶ2大超大国の一方当事者指導部だったのかと思われるほど、無定見で、さして日を置かずエリツィンの反クーデターに破れ、遂には共産党非合法化まで至る。このときのエリツィンの勝利で、ゴルバチョフの権威は地に落ちる。

ゴルバチョフという一人の政治家伝として読んでも、その盛衰は面白い。

共産党の非合法化の合法性・合憲性がソ連憲法下の裁判所で裁かれる展開というのは、本書で初めて知ったが、元々政治裁判で法的問題ではなかったようだ。その意味では興味を殺ぐが、本書は、非合法化を認める裁判所の結論で終わる。

少々長いが、正しくソ連帝国の崩壊を描いて圧巻である。時間をかけて読む価値は十分あると言えよう。


白水社
各3200円+税