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福岡市弁護士甲能ホームメディア評インデックス米中逆転−なぜ世界は多極化するのか?

メディア評インデックス

2011.04.03(日)

米中逆転−なぜ世界は多極化するのか?

田中宇

ソ連が崩壊した冷戦終了後、唯一の覇権国家はアメリカであった。そのアメリカを中国は抜くのか、という題名のつけ方だが、著者の真意はそうではない。著者の真意は、アメリカが没落して唯一の覇権国家として君臨するのではなく、アメリカが没落し、中国を筆頭とするBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)などの新興国家が勃興し(他にユーロ連合があるが)、それぞれが覇権を分け合い、世界が多極化するという見通しを述べているのである。

今まで、そういう分析は読んだことはなかったが、著者によれば、アメリカ内部に矛盾があり、それは軍産複合体を母体とする英米中心主義の流れと、アメリカのみが唯一の覇権国として一極集中するのではなく世界各地で新興勢力が覇権を担う多極化を望む流れとの確執があるのだそうである。アメリカはその内部矛盾で政策が揺れ動く(著者は「かくれ多極派」という言い方もする)。イラク・アフガニスタンの軍事的失敗とドルの危機とアメリカ国家の財政危機で、アメリカは没落せざるを得ず、その合間を縫って先にあげた中国を筆頭とする新興国が勃興するのだというのである。現に国連などでは米英の影響力は大きく第三世界に水を空けられているという。その新興勢力のトップを担うのが中国であり、ただ中国は新興勢力の牽引車になるだけで、アメリカの地位に取って変わるわけではないのである。

この様な世界の流れをみたときに、日本はどうすべきなのか。著者によれば、外務省を筆頭とする官僚勢力は対米従属派であり、この対米従属派が戦後日本を牛耳って来たのだが、先に述べた世界情勢からすればこの対米従属では世界は乗り切っていけなくなっているという。日本・中国・韓国の東アジア、更には輪を広げてイランやオーストラリアまで含めた大アジアの牽引を中国と共に担って行かなければならない筈だと著者はいう。その意味では対米従属は日本の桎梏となっており、最近の反官僚・地方分権の動きはその桎梏からの脱却の文脈で語られ、沖縄の米軍基地返還も当然なされるべきだし、何よりもアメリカ自身が返還を望んでいるのに、それをむりやり引き止めているのは守旧派の対米従属派だというのだ。

大変、新鮮な切り口で、この様な分析は今まで読んだことがなかったので、今後はこういう視覚も必要なのかなと認識を新たにした。


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