甲能法律事務所甲能法律事務所
検索

メディア評インデックス

2010.08.10(火)

資生堂ブランド

川島蓉子

「資生堂」と言えば、男性の僕でさえ知っている化粧品業界のトップクラスの企業である。その企業ブランドがどうやって確立したか、それをどう維持して行ったか、それをどう拡大して行ったか、そしてこれからどう拡大再生産して行こうとしているのかを探った企業レポートである。

基礎的な知識で知らなかった僕が無知だったのだが、ブランドには企業ブランドと商品ブランドとがある。車で言えば、トヨタという企業ブランドにカローラ・プリウスとかセルシオという商品ブランドがあるのと同じである。

資生堂は、この商品ブランドを磨き上げて企業ブランドも磨き上げるという戦略をとるのだが、その戦略の変遷を追って行ったのが本書である。

その企業戦略全体を化粧品メーカーとして、大変わかりやすく訴求力のあるコピーとしたのが「一瞬も 一生も 美しく」というものである。なるほど、と思わせる。美しくありたいという女性の普遍的願いを見事にコピー化したものと言えよう。

そして、その企業戦略は、顧客接点深耕ブランド戦略と顧客接点拡大ブランド戦略に分けられる。平たくいうと、前者は顧客との付き合いを深める戦略であり後者は客層を広げる戦略である。どちらも企業には必要な戦略で、このどちらが欠けても企業全体の成績は上がらない。この両面の戦略を目的意識的に追及して且つ有機的に結合して行く訳である。

本書は、具体的に資生堂の商品ブランド名を挙げてそれぞれ検討していくのだが、なるほど企業とはこういう風に物を考えるのかと、企業戦略とは日頃無縁の仕事をしている僕などは感心してしまった。

しかし、僕はたった一人とはいえ企業ではあるのだから、同じように顧客接点深耕ブランド戦略と顧客接点拡大ブランド戦略を考えなければ行けない。日々の仕事に追われているばかりではなくて、自分自身の経営戦略を今一度考えなおさなければ、という気になった。


文春文庫
695円+税