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2008.12.25(木)

裁判官罷免

ストーカー法違反を理由に

国会の裁判官弾劾裁判所は、24日、ストーカー法違反で有罪となった裁判官を罷免した(朝日25日朝刊)。

この一行だけで、わかりにくい言葉が複数出てくるのでウンザリする人がいるかも知れないし、前にもこの裁判官については書いたが、一般の人にはわかりにくい制度なので少し再説する。

まず、「弾劾」とは厳しく責任追及をして人を非難することをいうのが一般だが、公務員を辞めさせる場合にも使われることがある。民間企業では、解雇や馘首(いわゆるクビ)だが、特別な職務(公務)にある人をその職務から一方的に外す場合に使われる。そして、「罷免」も「辞めさせる」ことで、例えば、内閣総理大臣が国務大臣を「罷免」すれば、大臣の職から外す、すなわち大臣としてはクビという訳である。

この報道にあるように、裁判官を辞めさせるには国会の「裁判官弾劾裁判所」の判決によらないといけないことになっている。何故かというと、裁判官は憲法上「裁判官の独立」といって時の権力からも独立して裁判ができるように強い身分保障があり、為政者(内閣や国会の多数派)の気ままにクビにすることは認めないことになっていて、厳密な手続きが必要だとされているからである。

裁判官は、国が訴えられた場合でも、裁判官も同じ国家公務員だからといって正当な法的理由なく国に味方する訳には行かないのが建前である。しかし、国の権力者が気に入らない判決が出そうだ或いは出したといって、好きなように裁判官のクビを切れるような仕組みになっていれば、訴えられた国から見ても訴えた国民側からも見ても公平・中立な裁判は期待できない。そこで、裁判官は時の権力にオベッカを使ってクビになる危険から逃げたりする必要がないよう憲法上強い身分が保証された。その現れの一つが、この「裁判官弾劾裁判所」の制度である。

内容としては、まず身内の裁判所(最高裁判所)がクビにする権限はないのは当然として、上記の意味で時の権力者たる内閣にもクビにする権限はない。だから、「国権の最高機関」である国会がクビにする権限があるが、これは国会の単純多数決ではなくて、国会議員で構成される特別の組織である「裁判官弾劾裁判所」で、「判決」という形でしかクビにならない。「判決」である以上、法的に正当な理由を付けなければならない。だから時の政府がその裁判官を気にいらんからとか時の政府に反対しているからという理由では裁判官はクビにできないのである。

それだけ厚い身分保障を受けているのだから、今回の様な事件の裁判官は出て来て欲しくはない。