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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス甲府地裁、ストーカー判事に有罪判決

判例解説インデックス

2008.08.11(月)

甲府地裁、ストーカー判事に有罪判決

裁判官訴追委員会、訴追か

甲府地裁は、8月6日、宇都宮地裁判事だった被告に、ストーカー規制法違反について執行猶予付きの有罪判決を下した(朝日新聞8月8日夕刊)。被告人側は控訴しない方針だというので、この判決が確定するだろう。

 記事によると、裁判官の訴追委員会に訴追されそうなので、このことについて解説しておく。

 裁判官は憲法上「独立」が保障されている。すなわち、時の権力や財閥の財力などの外圧に屈せずに「法と良心」にのみ従った「正義の判決」を下せるよう「独立」して判断が下せるよう、その身分が憲法上高く保障されている。だから、裁判官の身分を取り上げようとすれば厳格な手続きが必要だとされて法律も定められ(行政権はタッチできない)、裁判官の「罷免」(要するにクビ)については厳しい段取りが必要で、こういう事件を起こした後で張本人が自主的に「辞めます」と言って退職金だけ受け取るという訳には行かないのだ。本人が「辞める」と言っているからというのでそれをあっさり受け付けるのではなくて、組織の側から「クビ」を言い渡す必要がある場合があり、本件はそれに当たる。

 手続きとしては、非違行為をした裁判官について、裁判官訴追委員会が「訴追」(平たく言えば「訴える」)を「裁判官弾劾裁判所」(国会内に設置されている)に対して行い、この裁判官弾劾裁判所でその裁判官を「罷免」するかどうかの判断を下す。かなり厳格な手続きである。

 逆にいえば、簡単にクビにできないよう憲法でそれだけ身分を守ってあげているのだから、あちこちに媚びへつらう様なことはせず、自らの信ずるところに従って正しい判決をして下さいよ、それがあなたの役目ですよ、ということなのである。

 被告人の違法行為を断罪する立場の人間が違法行為をしてはいけない。当り前の話で、昨今は警察官や教育者にも違法行為が見られるが、裁判官は最後の砦でなければならない。その意味では、本件で執行猶予は甘いかな、という気がしないでもない。