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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス大阪家裁「再審無罪」宇都宮地裁「自白強要に賠償命令」

判例解説インデックス

2008.03.02(日)

大阪家裁「再審無罪」宇都宮地裁「自白強要に賠償命令」

冤罪を裁いた二事件

2月28日、大阪家裁は、成人の刑事裁判では「再審請求」にあたる「処分取消の申立」をしていた元少年(現在20歳、事件当時16歳)の主張を認め、2004年に出した大阪家裁の少年院送致の保護処分を取り消した。言わば「再審無罪」である。但し、少年は、少年院送致自体は実行され1年7ヶ月の収容生活を送っている(朝日新聞2月29日朝刊)。

新聞によると、これは大阪地裁所長が被害者になったとして騒がれた強盗致傷事件で、逮捕・勾留され刑事手続き・少年法手続きによってさばかれたのが、成人男性2人、事件当時16歳、14歳、13歳の少年、という5人である。

このうち成人男性2名は大阪地裁で無罪判決が出て、検察官控訴により現在高裁で審理中。今回の当時16歳の少年は、家裁の少年院送致に対して高裁に抗告、最高裁に再抗告をしたが認められず(上述したようにこの間、少年院収容の執行は止められない)、更に「取消」を求めたのが今回認められた。事件当時14歳の少年については、家裁で少年院送致の決定、抗告したところ高裁が決定を取り消して家裁に差し戻され家裁自身が不処分(無罪にあたる)としたが、検察官が抗告。当時13歳の少年については、「虚偽の自白強要」と国などに損害賠償を求める訴えを大阪地裁に提訴している、とのことである。事件当時13歳の少年は刑事責任が問われないので、この様な形になったのだろうが、他の4名は確定はしていないものの一度は全員「無罪」となったことになる。大型冤罪事件に発展しかねない。

胸倉を掴むなど苛酷な取調があったかの如き記事になっているが、皮肉なことに、この「再審無罪」を伝える記事と並んで「知的障害者に対して、その迎合傾向を利用して虚偽の自白調書を作成した」として損害賠償責任を認める判決を宇都宮地裁が出している。

未熟な少年や、知的障害のある人に、虚偽の自白を迫って「犯人を作り出そう」とする捜査側の態度は厳しく批判されなければならないだろう。その様な捜査を抑制・防止するとして、今、取調の可視化が唱えれられているが、これは取調全過程を録画しないと意味はなかろう(観念して自白した時期だけでよいという意見もあるそうであるが)。