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2007.12.23(日)

暴力団組長の使用者責任

組長の賠償責任拡大

警察庁が、暴力団対策法での組長らの損害賠償責任を拡大する方向で改正を検討しているとのこと(朝日21日夕刊)。

これに絡めて、若干古いが組長に不法行為の使用者責任を認めた画期的な判決(平成16年11月12日)を紹介する。

不法行為による損害賠償責任とは、他人の法的利益(生命・身体・財産・名誉など様々なものがある)を違法な行為により侵害した者は、その被害者に対して損害を賠償しなければならないという言わば常識化している法的責任である。

この不法行為責任にも幾つか種類があるのだが、よく使われるものの一つが「使用者責任」というものである。これは、使用者が事業を行なう際に、その被用者が損害を加えた場合は直接の加害者ではない使用者も責任を負わなければならないという内容である。

この責任が成立するためには、直接の加害者自身の行為が不法行為の条件を備えていなければならない他、加害者と使用者との間に使用・被用の関係があること、加害行為が使用者の事業の執行につき行なわれなければならないこと、が必要である。この場合、使用・被用とは雇用関係など労働契約が結ばれている必要はなく事実上の指揮命令が行なわれる関係があれば足りると解されている。また、事業の執行につき、という意味も事業そのものだけではなく事業の外形を備えていれば足りるともされているのであり、いずれにしても相当この責任の適用範囲は広い。

しかし、組は違うが組織的に連携する暴力団の行なう活動に、この「使用者責任」が組長個人に問えるかという点で疑問がない訳ではなかったところ、最高裁は、これを明確に認めた。

「一次組織から二次以下の下部組織によるピラミッド型の階層組織を形成する…暴力団の組長は、下部組織の構成員を、その直接間接の指揮監督の下、組の威力を利用して資金獲得活動に係る事業に従事させていたということができるから、本件組長と下部組織の構成員との間には、使用者と被用者の関係が成立していたと解するのが相当である。」

妥当な判決と考える。