甲能法律事務所甲能法律事務所
検索
福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス東京地裁、自白撮影DVDの証拠価値は「過大視できない」と判断

判例解説インデックス

2007.10.12(金)

東京地裁、自白撮影DVDの証拠価値は「過大視できない」と判断

録画の証拠価値を限定

10月10日、東京地裁は、捜査段階の取調べ状況を録画したDVDを証拠採用したものの判決理由の中で、検察官調書の自白の任意性についての有用な証拠として「過大視でき」ないと評価した(朝日新聞朝刊10月11日)。

記事によると、「自白」のシーンが収められたDVDについて「撮影は自白に至ってから約1ヶ月後で長さも10分余りに過ぎない」「被告が自白した理由、心境などを簡潔に述べているのを撮影したものにすぎず、自白に転じる経緯を撮影したものではない」「検察官の調書の任意性についての有用な証拠として過大視できず、(取調べをした)警察官の証言の信用性を支える資料にとどまる」と述べた、とのことである。

この記事の見出しが「録画の証拠能力を限定」とあるが、若干不正確な表現である。「証拠能力」とは、証拠として採用することができるかという局面であり、その意味では判決は証拠能力ありと判断しているので、限定もなにもない。限定しているのは「証拠価値」である。

保険金殺人のこの裁判で何が問題になったのか、私自身は知らないが、記事を読む限り、捜査段階で「自白」した被告人が公判段階で「否認」に転じたので、捜査段階の「自白調書」が証拠調べ請求されたのであろう。「自白」(調書)は、任意性がない限り証拠能力(つまり証拠として使うことが出来るか否か)はないのが刑事訴訟法の原則である。そこで、任意性があるという証拠として出されたのが、自白場面を撮影したDVDという流れなのだろう。

現在、日弁連を中心に「取調べの可視化」が熱心に主張されている。なぜなら、密室の取調べが自白の強要を生み、冤罪の温床、それを公判段階で争うことによる裁判の長期化など等の沢山の弊害があり、取調べ状況をDVDなどで撮影し後で取り調べ状況を見ることが出来る(これが「取調べの可視化」)ようにしておけば、その密室性が打破されるからである。但し、日弁連の主張は「全」取調べ期間の可視化であり、つまみ食い的に捜査側に有利なときだけ録画すれば良いというものではない。それは常識であろう。その意味で、今回の東京地裁の判断は、もっともというべきである。