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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス東京地裁、名誉毀損について、配信元通信社の責任を否定し掲載紙である地方新聞社の責任を認める

判例解説インデックス

2007.09.27(木)

東京地裁、名誉毀損について、配信元通信社の責任を否定し掲載紙である地方新聞社の責任を認める

「配信サービスの抗弁」認めず

東京地裁は、名誉毀損の損害賠償責任につき、名誉毀損の元となる記事を配信した通信社の責任を否定し、配信された記事を掲載した地方新聞社の責任を認めた(朝日新聞9月18日)。

元々は、医療過誤事件で業務上過失致死罪に問われた刑事裁判(一審で医師は無罪になり検察側が控訴中)に関連した記事を通信社が契約関係にある地方紙に配信し、その記事を地方紙が掲載したところ、その記事内容が名誉毀損に該当するとして損害賠償訴訟を起こされた。東京地裁は記事を執筆した通信社は「事実関係を誤信する相当な理由があった」として責任を否定する一方、その記事を掲載した地方紙の責任は認めた。配信記事を掲載しただけの新聞社は免責されるという「配信サービスの抗弁」を認めなかったとされる。

名誉毀損は、刑法上の犯罪であると同時に民法上の不法行為であるから民法上の損害賠償責任が認められる。ただ批判的な報道が何でもかんでも名誉毀損だとされると、表現行為を萎縮させて憲法上の表現の自由を保障した観点から問題があるため、示された事実が真実であると信ずるに足りる相当な理由があるときは免責されることになっている。つまり、例えばジャーナリズムであれば、真実だと信ずるに足りる取材を経て記事にした後に、それが真実でないと判明した場合は免責されるのである。当然、真実だと信ずるに足りるだけの取材が前提である。

今回の件では、配信元の通信社は、十分な取材をしたのでその免責が得られるが、その記事を右から左に掲載した契約新聞社は免責を認める訳には行かないとした。一貫しない判決のようにも思われるが、契約社である地方新聞社は掲載時に通信社発の記事であることを明記せず、その地方紙作成の記事であるかの如く掲載していたのだそうである。

うーん、どうだかなぁという気がする。全国47都道府県にどれだけの地方紙が発行されているか私は知らないが、全国や海外をカバーする通信社の記事の真偽を検証できる地方新聞社がどれだけあるだろう。そもそも、そんな検証が出来るくらいの体制があるなら、通信社と契約などしなくても自前の取材網で殆どの記事を埋めるだろう。多分、問題は配信記事であることを明記しなかったことにあるのではないか。でも明記してあれば責任逃れが出来るというのも、何かいい加減という気もする。

憧れていた新聞業界のことなので、つい眼に留まった。尤も、書評で触れた「報道されない重大事」では大新聞社の記者たちの不感症が問題にされていたので、新聞記者はカッコいいばかりではないのだろう。