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福岡市弁護士甲能ホーム判例解説インデックス最高裁、消費者金融業者に取引履歴開示義務を認める

判例解説インデックス

2005.07.20(水)

最高裁、消費者金融業者に取引履歴開示義務を認める

消費者には有利

最高裁は、平成17年7月19日、「消費者金融会社は借り手側に、その借り手との取引履歴を開示する義務があり、開示しなかった場合は損害賠償義務を負う」と判示した(朝日新聞19日夕刊)。

なぜ取引履歴の開示について争われるのかについては、消費者金融の仕組みや多重債務救済のやり方を知らないとピンと来ないと思う。

まず、必要な法律知識を整理しよう。

「利息制限法」という法律がある(略称「利限法」)。この法律の1条1項によると、次の制限を越える利息は無効である。(1)元本が十万円未満のときは年2割(つまり20%)、(2)元本が十万円以上百万円未満のときは年1割8分(つまり18%)、(3)元本が百万円以上のときは年1割5分(つまり15%)。1条2項は、これを超える利息を「任意に」支払ったときは返還を請求できない、とされているが、この規定は判例により殆ど空文化されている(話しを簡単にするために少し不正確な表現をお許し願いたい)。

次に、「出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律」という法律がある(略称「出資法」)。この法律5条で高金利に対しては、刑事罰が課せられることになっている。誰でも年109.5%を超える金利の契約をしたら5年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金、或いは併科(1項)。貸金業を営む者は年29.2%を超える金利の契約をしたら同じく5年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金、或いは併科(2項)。いわゆるヤミ金(トイチ=十日で1割、トサン=十日で3割などの暴利を貪る)が処罰されるのはこの法律による。

では貸金業を営む者である消費者金融が、この29.2%以下ではあるが利限法は超える金利で契約したらどうなるか。原則無効だから、借り手が「金利」として払っても契約上の「利息」扱いは出来ず「元本の返還」と扱い、元本が完済され消滅しているなら法律上の用語で「不当利得」となって借り手に返還しなければならない。

ところが、ここに「貸金業の規制等に関する法律」(略称「貸金業法」)が登場する。この法律の43条に「みなし弁済」と称して、利限法の利息は超えるが出資法の利息は超えない契約で利息を受け取っても、元本には充当せず金利として受け取れる場合が規定されている。業者が法律で求められた条件(借り手に詳細な明細を書いた書面を交付するなど)を守った場合である。従って、この規定を遵守する前提で貸金業者は出資法違反にならない限度ギリギリの利息を取る。つまり年29.2%である。利限法上の最高金利でも年20%なのに、それを9.2%も超える利息を取ることを許すのだから、この規定には極めて厳しい批判がある。従って、裁判所もこの規定の適用には厳格な解釈を取り、貸金業法43条の適用を認めない事例がかなりある。

ところで、サラ金から金利29.2%の契約でお金を借りて毎月マジメに返済を継続していたとしよう。これを利限法の金利で引き直し計算をするのが、私達弁護士の多重債務整理の最初の仕事である。計算してみると今まで利息扱いで計算されていた分が元本に組入れられるので、業者が請求している元本額が大幅に減る、更には過払いになっている、ということも珍しくない。そうなると、その計算結果を前提に業者と交渉することになる。

ところで、この利息の利限法に基づく引き直し計算をするには、それまでに業者から借りた額、返した額、が明らかになる必要がある。しかし、借りた側の一般市民が一々明細を保管していることは珍しい。それで、借り手の側から取引経過を明らかにせよという要求が出て、業者側は取引経過を出し渋るという綱引きが繰り返されていた中で、今回の最高裁の判例が出たという文脈である。もちろん開示義務を認めた以上、借り手側に有利な判例である。

この判例は有難いものではあるが、そもそも利限法がありながら国会が貸金業法43条の様な法律を作って利限法の脱法を認める様な態度を取っていること自体がおかしい。出資法の刑罰金利も以前はもっと高率で取っても良いことになっていた。下がったとはいえ未だ未だ高利である。消費者金融業者をどうしてこうも優遇するのか。高額納税者番付に消費者金融会社の代表が名前を連ねているのと何か関連があるのかと勘ぐりたくなってしまう。