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メディア評インデックス

2010.12.30(木)

ヤメ検 司法エリートが利欲に転ぶとき

森功

ヤメ検とは、検事を辞めて弁護士になった人らの総称だが、本書ではやや狭くヤメ検の中でも特捜部出身者を特に指して語られている。本欄でも、ヤメ検の著書は2冊取り上げた(田中森一「反転」・緒方重威「公安検察」)。この2者はいずれも刑事被告人となって有罪となった者であるが、本書の対象は両者を扱いつつも対象は特捜部出身ヤメ検に的を絞っているようである。

特捜部検事としていわゆる巨悪と対決していた者が、辞めた途端にいわゆるヤメ検として巨悪の弁護に回るということへの素朴な疑問を軸に、ヤメ検の実態が様々に語られる。私自身は、いわゆるプロパーで最初から弁護士であり、福岡県弁護士会にも何人かヤメ検はいるが、本書に登場する特捜部出身の東京・大阪のヤメ検は、私の知る以上に現役の特捜部との繋がりや特捜部OBのネットワークの繋がりが強いようである。

著者の視線は、ヤメ検を必要悪と見るよりは批判的に見る姿勢が強いようであるし、実際、書かれている事例を見ると問題視せざるを得ないと思われる事例が多い。検察庁という役所内での役職の繋がりが、辞めて弁護士になった後でも付いて回る、というか、そのネットワークをヤメ検自体が大いに利用しているようである。弁護士プロパーでやって来た人間から見ると、その繋がりは正直やはり異様である。検察庁自体が権力争いや政治の世界からは無縁ではないらしいのだが、それが辞めてからでも影響を及ぼすらしいので、窮屈な世界である。だが、そのネットワークに頼らざるを得ない人々がいるのも事実らしい。これを司法界の病巣と見るかどうかは意見の分かれるところだろう。

ヤメ検の実態に迫る本書は、司法界の門外漢の人たちに是非読んでもらいたい。


新潮文庫
514円+税