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2010.05.22(土)

銃・病原菌・鉄(上)(下)

ジャレド・ダイアモンド 倉骨彰訳

人類史というか文明史というか。最大大陸ユーラシア大陸から最小大陸オーストラリア大陸の5大大陸に跨って、なぜ人類文明が不均等に発展してきたか、その結果として、現代でも狩猟採集の流転生活を送る人類から最先端の科学技術の中で生活する人類の差があるのか、かなり広範囲の科学を用いて解明しようとしたのが本書である。

知的な意味で実に面白い。

著者の論理を極めて乱暴に要約すると、人類が食物(植物・動物)を栽培や家畜化により増産できる地域が現れ、そのためその地域では養える人口が増え人口の増大と稠密化が始まり、そして、自らは食物生産活動に従事せずとも余剰食物で生活できる階層が発生することにより社会が複雑化・組織化され、その様な人口増大・社会の組織化から様々な発見や科学技術の発展が見られ、それによって人類の文明化が進むということである。出発点である植物の栽培や動物の家畜化については、各大陸の自然条件に従い、また人類間の交流の可能性にも規定され、現代の欧米先進国とアフリカ等の発展途上国との差が生まれることになる。

そして著者は、文明ないし民族間の文明化の差異を人種の優劣ではなく、地域の自然条件をまず第一義とし、やがて、それに様々な歴史的条件が重なるという考察をする。白人が優等人種でありアフリカ人が劣等人種であるという見方を根本的に否定するのである。

この冷静な論理運びは、疑問は疑問のまま提示し安易な憶測を戒めるという著者の真摯な学者としての態度と相俟って、説得力に富む。

上巻・下巻と少々長いが、その知的興奮から中々手放せず時間を忘れる。大げさに言えば、様々な便利な機器に取り囲まれて暮らしている私の人類史的位置づけが見えて来る。著者は飽くまで自然科学的態度を崩さず、政治的発言や個々人の偉人や王朝・時代の歴史評価は一切語らないが、それにより却って現代の骨組みが見えて来るという意味で、ある種ラジカルな本ともいえよう。大いに推奨する。


草思社
各1900円+税