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2010.01.14(木)

スカーペッタ

パトリシア・コーンウェル 池田真紀子訳

知る人ぞ知る「検死官」シリーズの最新作である。

お馴染みの登場人物達が跋扈するが、私が特に本作で嬉しかったのは、ピート・マリーノの復活である。前作で、主人公スカーペッタをレイプしそうになり、それを恥じて行方不明になっていたのだが、本作では最前線に復帰する。復帰する過程での登場人物達の葛藤が描かれはするが、物語では余り大きく扱われてはいない。察するに、前作でのピートの失踪の仕方に固定ファンが抗議の声を殺到させたのではないだろうか(私も不満だったから)。それで、作者はピートの名誉回復の場を与えたのではないかと思う。で、その点は手早く片づけて、本筋に持って行きたかったのかも知れない。尤もこの点は、本シリーズを継続して読んでいないと分かりにくい点だが。

物語の背景をなすのは、いわゆるネット社会である。インターネットやパソコン用語が氾濫するので、多少なりともメールやワープロの知識がないと附いていけないかもしれない。ただ、物語のメインとなる殺人事件自体にはそれほどコンピュータ用語は絡まないから、コンピュータに弱い人でも少々片仮名のコンピュータ用語を我慢すれば、十分楽しめるだろう。

ただ、活字で読んでいるから良いが、検死場面は想像しながら読むと例によって相当気持ち悪い。その手のグロテスクな場面に弱い人はダメな個所があるようだ。尤もこれも大した分量ではないが。

この「検死官」シリーズでは、最後は犯人が自ら主人公の前に現れるというパターンが目に着き、犯人追跡自体に重きが置かれる事は余りない。追いつ追われつの追跡劇でのサスペンスという点、いつも物足りなさを感じるが、犯人探し自体はそれなりに楽しめる。

少々長くて冗漫な印象もなくはないが、シリーズ固定ファンなら楽しめるだろう。まったく初めて本作から手にする人はどうかわからないが。


パトリシア・コーンウェル 池田真紀子訳<br />講談社文庫
講談社文庫
(上)(下)各838円+税