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2010.01.04(月)

警官の血(上)(下)

佐々木譲

終戦直後辺りから始まり現代まで続く警視庁警察官三代の物語。三代に亘って明かされる殺人事件の謎というのも重要な縦糸になっているが、やはり主は題名通り「警官の血」であり、副は三代それぞれの警察官の生きた時代背景(終戦直後・高度成長期・現代)ということになろう。

特に高度成長期の学生運動華やかなりし頃、公安警察のスパイとして過激派組織を学生の身分で内定する2代目が活躍した時代が、丁度私の中学・高校辺りに当り、多分、警察の内定というのはこういう風に行なわれていたんだなぁと目から鱗と言った感じだった。初代・2代目・3代目とそれぞれ時代背景が違うが、その中に一本、「警官の血」というものが貫かれており、それがある種の感慨−職業倫理とはかくもあるかなという感慨を抱かせる。

かなり取材はしたのだろうから、荒唐無稽の全く事実無根の絵物語という訳ではないと思うが、学生運動の内定が更に次の代の警察内部の内定に話が変わると、ホンマかいなという気にさせられないでもない。しかし、どこからが取材でどこからがフィクションかわからないまでも小説として読む限り面白い。

祖父・父・息子と三代通じて解き明かされる殺人事件の謎それ自体はそれ程意外という訳ではなくて、その意味ではミステリーの醍醐味としてはイマイチという気がしないでもないのだが、人物と時代の交錯を描く物語としては十二分に面白い。「このミステリーが面白い」の2007年度大賞とのことだが、やはり受賞作だけある。

祖父・父・息子と三代の流れは決して少ない分量ではないが、余り長さは感じなかった。作者の筆力の故だろう。

十分にお奨めの大作である。


佐々木譲<br />新潮文庫
新潮文庫
上巻・下巻各629円+税