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メディア評インデックス

2009.11.29(日)

若き友人たちへ−筑紫哲也ラスト・メッセージ

筑紫哲也

筑紫さんが肺がんでお亡くなりになってから1年が経つ。本書は殆どが講義録だが、実質的に遺稿集と呼んでも良いだろう。

読んで感じるのは、そのリベラルの一貫性である。強圧・強権とは闘い批判し、社会的少数派や社会的弱者の視線を維持し、その立場からジャーナリストとしての発言を繰り返す。そして、その方法論の一端を伝授する。一例として「知の三角形」をバランスよくしようとする。まず情報=I(information)、知識=K(knowledge)、知恵=W(wisdom)の、このI・K・Wをバランスよくするということを提唱する。

「分らない世界で暴動が起きたというニュースが入ってきても、本当に何が問題なのかを正確に理解することは難しい。そうであれば、中東で毎日起きているニュースをしばらくは置いといて、イスラム世界とは何か、中東とはどういう地域なのか、それをじっくり勉強する、あるいはその知識を貯える、ということのほうがバランスの取れた理解へ向かえるということは容易に想像できると思います。」

その様な基礎作業から、日本を見る、日本を沖縄から見る、憲法を読む、様々なジャーナリスティックな視点を提供する。姿勢は真摯である。

 今の初の政権交代なった日本について、筑紫氏が御健在であったら、どういう視点からどういう意見をお述べになっただろうと思うと、氏の不在が残念でならない。

 本書は遅まきながら筑紫哲也入門と言った趣もあるので、テレビでしか筑紫氏をご存知ない方に是非お奨めしたい。


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