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2009.10.04(日)

中庭の出来事

恩田陸

凝った構成のミステリーである。本編の中に劇中劇があり、劇中劇の中に更に劇中劇中劇があり、しかもそれらの劇中劇が脚本形式で書かれているので、どの次元の話かうっかりすると混乱する。そのうえ、一人の人物を個性の違う3人の女優が演じるという場面が最初に続く。

ミステリーではあるのだけれど、寧ろ演劇の世界、女優とは何か、脚本家とは何か、或いはその業界でのしきたり等があちこちに散りばめられていて、その面での興味深さもある。私は、本物の新劇というものを直接には鑑賞したことはないのだが、そちらに詳しい方は、ここに出てくる3人の夫々個性を持った女優を現実の誰それにあてはめて、この役は誰、この役は誰と言う風に当て嵌めていくという楽しみ方もできるのではないか。

読み進めて行くと、「演技とは何か、演ずるとは何か」が曖昧になって行き、我々の日常の輪郭がぼやけて行く。題材は殺人事件で我々の日常とはかけ離れていはいるが、誰しも日常を演じているわけだから、それを今一度気付かせてくれる奥深さを持ったミステリーということができよう。


恩田陸<br />新潮文庫
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667円+税