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福岡市弁護士甲能ホーム日記インデックス2009.1.9(金):今年の課題‐裁判員制度の実施に向けて

日記インデックス

2009.1.9(金)

今年の課題‐裁判員制度の実施に向けて

大変遅くなりましたが、新年の御挨拶を申し上げます。改めて明けましておめでとうございます。

さて、私(というより裁判関係者全員)の今年の課題は、裁判員制度の実施であろう。

ほぼ連日マスコミで報道されているので、一般の方々の認知度は上ってきているようだが、そもそも直接の裁判関係者自身にとっても未知の領域に踏み込んで行くのであるから、その期待・不安は一般の方々とは別のものである。裁判員に選任される一般人は一生に一度くらいの経験だろうが、我々はそれが職業だから何とか円滑に運営できるよう制度に精通しなければならない。しかし、何と言っても戦後憲法制定時に大改正された刑事訴訟法以降、最大の刑事訴訟改革で司法関係者全員が初体験だから、試行錯誤が繰り返されるであろう。

私自身、制度の概要がわかっている程度で、自身が弁護人に選任されたら殆ど泥縄式にやるしかない状況であることを正直に告白せざるを得ない。

裁判所・検察庁は組織だから、トップが音頭を取って職員に研鑽させれば全員が勤務時間中に参加して施行後最初からそれなりの水準まで行くだろう。しかし、弁護士の大半は個人商店で、弁護士会も個人商店連合会の様なもので(執行部は年度毎に選挙で選ばれる)、上命下達の組織とは大いに異なり、執行部が研修を実施して参加の音頭を取っても参加するしないは各弁護士の自由である。そのため、裁判員制度の弁護人の到達度は多分千差万別だろうと思われる。我ながら大丈夫かなという気がする。

尤も、正直に告白すると、私自身は裁判員制度そのものに対する疑問もあるのである。制度の勉強が進んでいない言い訳になるが、これまでプロの裁判官のみが裁いていたものに一般人が参加することがこの制度最大のメリットとされているが、それが逆に弱点になる可能性は十分にある。

具体的にいうと、罪を犯したかどうかの事実認定の問題と、犯した罪がどれ位の刑に値するかという量刑の問題の、両者の問題に裁判員は関与することになるのだが、特に後者の量刑に対して私は不安が強い。

ワイドショーを典型に最近のマスコミの風潮は重罰化への危険が大きいと思う。一般人参加ではその傾向が法廷に持ち込まれないか。そして、裁判員は一度限りの裁判だから、裁判所間の量刑の不公平化は不可避の様な気がする。もちろんプロの裁判官にも個性があって重罰化傾向の強い裁判官もいるのだが、裁判官は裁判間同士で揉まれるので、ある程度平均化(量刑相場のようなもの)されるし、国家公務員として転勤もあるので裁判所間での公平化もある程度は図れている、というのが私の現状認識である。同様の不安を持つ司法関係者は多い。

ともあれ、弁護人として十分に勉強しなければならない(本当は今からすぐにだが)。